宇都宮地方裁判所 昭和50年(ワ)122号 判決
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【判旨】
三事故の原因
1 本件事故現場の状況
東名高速道路は、本件事故現場付近において中央分離帯が幅三メートルにわたつて設置されていること、右分離帯と上、下各車線との境には高さ二五センチメートル厚さ一五センチメートルの縁石が設けられており右各縁石間には高さ一五ないし二〇センチメートルの盛土がなされ、その表面は芝生とねずみもちの木(高さ1.5メートル)が植栽されていること、その中央線上には幅六メートル間隔に鉄製支柱が立てられその支柱間に五本のガードロープが張られていてその最上端の高さは約七〇センチメートルであることは被告公団との間に争いがない。
原告らと被告高橋、同大長との間では<証拠>によれば、次の事実が認められる。
本件事故現場付近は、横浜より川崎に通ずる東名高速道路上であつて、川崎インターチエンジより一キロメートルの地点であること、該道路は上、下各車線とも進行方向左側より順次路側帯(幅三メートル)第一、第二、第三各通行帯(幅いずれも3.6メートル)側帯(幅0.75メートル)からなり、中央分離帯(幅三メートル)が設置されていること、右分離帯の状況は原告主張のとおりであること、該道路はアスフアルト舗装された直線道路であるが、川崎方面に向つて一〇〇分の三の上り勾配にあり、道路の南側及び北側はいずれも高さ二〇センチメートルの縁石を境に土手に接しその外側は小高い雑木材となつていること、しかして、本件事故当時、その直前に相当の降雨があつたため道路面は走行車両が水しぶきをあげる程度に濡れていて滑り易い状態にあつた。<証拠判断略>
2 本件事故発生の状況
原告らと被告高橋、同大長との間では<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告高橋は、昭和四九年五月ころ青果業を営む被告大長に運転者として雇傭され新宿の青果市場より三島の青果市場へ野菜類を運搬する業務に従事していたものであるが、同年八月二五日青果物を仕入れるため高橋車に被告大長を同乗させてこれを運転し、沼津方面から東京方面に向つて東名高速道路を東進し、同日午後二時五分頃本件事故現場付近に差し掛つた。
(二) 被告高橋は、上り第一通行帯を時速約六〇キロメートルの速度で高橋車を運転して本件事故現場付近に差し掛つた際、同一通行帯の進路前方約二〇メートルの地点に時速約五〇キロメートルの速度で進行中の自動車を認めた。
そして、被告高橋は両車の時速に差異があり次第に車間距離が接近するため車線を変更する必要を感じ後方を確認したところ、上り第二通行帯の後方約二〇メートルの地点を進行してくる山口車を認めた。
しかして、右山口車は時速八〇キロメートルの速度で進行していたため、高橋車と山口車との車間距離は次第に接近しつつあり、高橋車が第二通行帯へ進路を変更することは困難な状況にあつた。
これがため、高橋車は右折の信号を発したものの進路を変更することができず、漫然五〇メートル位の間第一通行帯を同一速度で進行した。そのため、数秒の間に前記先行車との車間距離は約七メートルに接近し俄に追突の危険を感じた。よつて周章狼狽した被告高橋は、後方の安全を確認する暇もなく直ちに右にハンドルを切つて先行車との追突を避けんとしたが、ハンドル操作が急激であつたことと前記のとおり道路面が滑り易い状態にあつたこととが相まつて高橋車はスリツプし運転不能に陥り第二通行帯を越えて第三通行帯にまで暴走した。
(三) 他方、山口車は、高橋車に比して速度が速かつたため、その車間距離も次第に接近し、高橋車が急激なハンドル操作を行いスリツプ状態に陥つたときには殆ど併進に近い状態にあつた。よつて、訴外亡山口は急遽ハンドルを右に切つてその衝突を避けんとしたが、前記のとおり高橋車は第三通行帯にまで暴走してくるためこれを避けることができず、第三通行帯において高橋車の右前部付近と山口車の左前部付近が接触した。
しかし、高橋車は運転の自由を失つており両車は接触したまま押し合うようにして二〇数メートル右前方に滑走し、被告高橋がハンドルを左に切り直したことにより高橋車は右側車輪を中央分離帯に乗りあげたまま約三〇メートル進行して漸く停車したが、これに対し山口車は高橋車によつて中央分離帯に押しあげられる格好となりさらにこれをとび越えて下り第三通行帯まで進入し、折から右通行帯を対向進行してきた渡辺車と正面衝突した。<中略>
4 被告公団の責任
(一) 被告公団が東名高速道路を管理するものであることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、国家賠償法第二条第一項にいう道路の設置又は管理に瑕疵があつたか否か即ち当該道路が通常具備すべき安全性を保有していたか否かについて検討する。
一般に高速道路は、最高速度一〇〇キロメートルと定められているところであるから、高速走行する自動車が対向車線に進入することは極めて危険であり、これら危防止のため高速道路の走行は一方交通と規制されUターンを禁止し或いは過つて対向車線に進入する車両のないよう中央分離帯の設置が要請されているところである。
したがつて、中央分離帯は主として高速走行する車両が過つて対向車線に進入することによつて生ずる危険を防止する目的の下に設置されるものではあるが、同時に右進入車若しくは複数の通行帯を同方向に進通行する車両相互間の安全を確保すべき要請も無視することはできないから、対向車両の安全のみを強調し、中央分離帯を乗り越えて対向線に進入することが物理的に絶対不能となる完璧な防止施設を求めることは許されないものいうべきである。
もし、中央分離帯に堅固な防護壁等を構築するときは、そのことにより対向車線への進入防止をより確実にすることにはなるけれども、他方過つて中央分離帯に乗り上げた車両が右防護壁に激突して重大な結果を招き或いは元の進行車線にはね返されて後続車両と衝突するなど他の危険がより増大することも明らかである。
そうすると、中央分離帯は前記諸要請を調和的に満しているかどうかを綜合的に考察し、通常予想し得る程度の事故に対処し得る構造を備えているときは分離帯としての安全性を保有しているものと認めるべきである。
(三) しかして、前記のとおり本件事故現場付近において本件中央分離帯が幅三メートルにわたつて設置されていること、右分離帯と上、下各車線との境には高さ二五センチメートル厚さ一五センチメートルの縁石が設けられており右各縁石間には高さ一五ないし二〇センチメートルの盛土がなされ、その表面は芝生とねずみもちの木(高さ1.5メートル)が植栽されていること、その中央線上には幅六メートル間隔に鉄製支柱が立てられ、その支柱間に五本のガードロープが張られていてその最上端は約七〇センチメートルであることは被告公団との間に争いがないところである。
よつて、右分離帯の状況に鑑みれば、仮に運転を過つた車両が本件中央分離帯に乗り上げることがあるにしても、対向車線への進入は通常十分に防止し得るものと認め得べきところである。
原告は山口車が下り第三運行帯まで進入したことをもつて直ちに本件中央分離帯の構造が不十分であると主張するけれども、山口車が右分離帯をとび越えたのは高橋車との接触により予想を遙かに越えた力が相乗的に加わつた結果惹起された事態であつて、右の如き稀に生ずる異常な事態に対応する完璧な構造を有していないからと云つて本件中央分離帯に構造上の欠陥があるということはできない。
(四) 以上、本件中央分離帯は通常備えるべき安全性を保有しているものと認められるから、被告公団は本件東名高速道路の設置及び管理に瑕疵があつたものということができない。
したがつて、被告公団は本件事故につき免責されるべきである。
(新海順次 相良甲子彦 金馬健二)